2010年10月27日

彼と彼女とPTC③

Students of Uganda②
ここでは「PTCとは何か」、PTC全般に関わる概論について改めて述べてみよう。

まず、PTCとはPrimary Teachers’ Collegeの略称で、小学校教員養成学校と和訳される。
TTC(Teachers’ Training College)と呼ぶ現地の人もいる。

PTCはその名の通り、主としてPrimary Schoolの教員を目指す生徒たちのための教育活動が行なわれていて、これをPre-serviceという。PTCはウガンダ全国に47校あり、その内45校がGovernment系Public PTC、内23校がCore PTC、残り22校がNon-Core PTCである。Core PTCとは、地域の現職小学校教員の再教育と資格取得をPre-serviceと並行して行っているPTCのことで、これをPre-serviceに対して、In-serviceという。
(In-serviceは、日本で幻となった教員免許更新制と思ってもらっていい。)


生徒は、Secondary Schoolの4年生を卒業したOrdinaryレベル資格取得の学生(17歳以上)が入学できる。
しかし、小学校の早期入学、転職や小中学校での落第などによって実際の生徒の年齢層は様々で、教職員より年上の生徒も少なくない。


例えばうちの学校は18歳から35歳まで、平均年齢は20代半ばというのが実情だ。
自然と『年上』に対して授業をするというキマづい事態も発生する。

想像してみてほしい。
僕の立場を日本に置き換えてみれば、
『日本の高校に、日本語が片言の黒人の中学生が理科を教えに来るようなもの』なのだ。
まぁ授業に関する苦労話ホニャララは、次の④で書きます。



さて、ここからはPTCの問題点を箇条書きに。


PTCを巡る問題点①
『勉強のできる学生はPTCに来ない』

Secondary 4年生の進路希望調査によれば、小学校教員の給料が安いためにPTCに対する人気は低く、教員になりたいと思っている学生は少ないようだ(下図参照)。
Uganda education system②
例えば、
国家試験である前期中等学校卒業資格試験UCE、それをパスした学生の進路希望はUniversity進学を見越したAdvancedレベルのSecondary 5~6年生(高校から大学初歩レベルに相当)が最も多く、技術学校や職業訓練校など各種学校と並んでPTCが第一志望となることはほとんどない。
したがって、UCE の試験結果の良し悪しに左右されて入学する校種がほぼ決定されてしまうため、PTCの生徒たちは必ずしも小学校教員になることを全面的に希望しているわけでもないのだ。
これが、学習に対するモチベーションはもちろんのこと、PTCにおける落第率や国家試験の合格率、小学校教員や初等教育の質にも大きく影響している。
加えて、PTCの卒業試験に当たる国家試験をパスすると、希望者はSecondary Advancedレベルに復学できる。結局、勉強のできる学生は小学校教員にはならずに大学に進学してしまうという仕組みなのだ。



PTCを巡る問題点②
『金銭的理由で消極的進学者がPTCには多い』

ところで、Public PTCの維持運営に係る経費は、全てウガンダ政府から、つまり税金から捻出されている。
それらは、生徒数及び日毎の計算により、各学校にUPE Fund (Capitation Grant)として支払われている。
よって、生徒は授業料を納入する義務がない。またPTC は全寮制であるため、その寄宿料支払いや公共料金、ポショ豆やチャイなどの食事代も無料となる。ただし、勉学の際の教材購入費などは自己負担、またRepeater (再履修者)の授業料は有料となる。

上記の"生徒の個人負担が少ない"というのは、PTC進学を『希望していない』消極的進学者(「小学校教員なんてなりたかないけど、安いからとりあえず行っとくかー」的な生徒達)を集める一因になっているのは否めない。



PTCを巡る問題点③
『小学校教師の給料はバカ安い』

ここで、ウガンダ小学校教員の実例を挙げてみる。
ウガンダのPrimary Schoolの教師の給料は月に10万UGX(2004)、およそ6000円である。確かに日本と比して物価は安いが、生活をするためにこの給料では非常に少ない。お金が足りず生活に困っている教師は、副業として別の職をもって働くことが多い。日本の公務員法では禁止されているが、ウガンダにはそのような法律は存在しない。
特に、オウィノマーケットというウガンダで最も大きなマーケットがカンパラ中心部にあるのだが、ここにいる商売人のほとんどは本職が教師だという。オウィノと言えば、非常に危険で治安が悪いマーケットとして有名で、盗難などは日常茶飯事のような場所だ。それだけ、教師を含めて貧しい人々が多いということである。
このような状況のため、教師という職業に就きながらも教育への重きはさておき、自らの生活のために副業で忙しく、その教師の質及び教育の質は徐々に低下していくのである。



PTCを巡る問題点④
『小学校教師の社会的地位はずいぶん低い』

現実に、ウガンダでは小学校教員の社会的地位はかなり低い。
"小学校教師"の職種で活動している友人の隊員は、地元住民に「なんでわざわざ小学校なんかで働いてるんだ?」と言って中学校教員への転職を勧められたそう笑。
初等教育の無料化を背景に「小学校なんて貧乏人のバカでも行ける学校」ってのが、ウガンダ人の初等教育に対する正直な認識だと思う。



PTCを巡る問題点⑤
『教育に対する予算配分が低く、教員への待遇が悪い』

ウガンダにおける教育の問題点は、基本的に予算の少なさや整備されていない教育システムのために、教職員の待遇の悪化、給料支給の遅滞や未払いを招いている点だ。
そこから生じてしまう教職員の仕事に対する意欲の低下、教育の質の低下が問題となる。
またそれを背景に、教職員という職業への敬遠による教師数の絶対的不足をも引き起こす。
そうして、教育の質がまた低下して、、、、という悪循環に陥るのだ。




長々とコリコリ書いてしまったけど、結局上記の5点は同じ事を言ってるに過ぎません。

早い話が、どうしようもない。

「PTCを巡るこの現状に対してどう思いますか?」と聞かれれば、

「でも僕は負けずに、現場からウガンダの教育を変えてやります!」なんて偽善ぶりたくないし、
「いくら現場で努力したって、全体から見りゃ何も変わらんのです」なんて偽悪ぶりたくもない。

これはこれで、ただの事実。「へー」の一言で終わりなのです。

「実は地球ってクルクル自転してるんです。どう思いますか?」なんて聞かれても
「へー」としか言いようがないじゃないか。

過度に悲観する必要はないのです。はい。


「この現状認識の下での、活動に対するスタンスは?」と聞かれれば言いたいことはモリモリあるのだけど、それは鼻血でグラフティが描けるくらいテンションが高い時に書きます。


何にせよ。
ちょっと大きな話が続いたので、次はもっと小さな話。

3 件のコメント:

  1. う~ん。。。難しい問題だね。
    途上国には悪循環していく問題が山積みで、結局貧困層は安定した生活が送りづらい感じだよね。
    教育現場でも、社会的弱者支援でも。根本は同じ問題に行き着く気がする。
    私たちがすぐドウコウできることじゃないけど、せっかく来んだし、ちいちゃい何かだけでも変えていきたいね☆彡

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  2. ほほ〜う
    興味深い事実でした。
    たしかに「へー」って感想にしかならないかも。
    でも、
    「ただの事実。過度に悲観する必要もない」ってところだったら大賛成なので
    「へぇ」「へぇ」「へぇ」の「3へぇ」で!

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  3. >TOMMY
    そうそう、根本は同じ問題なんだよ!
    よくこの結局何が言いたいのか分からない、この文章からそこまで読み取ったね!
    言いたいのは、要は『想像力の問題』って事なんだよ。
    社会的弱者支援も、やっぱりそこが根本の問題だと思うんだ。
    本当にちっちゃいし、できるかどうか分からないけど、それは変えたいよ、うん。

    >Piccolaさん
    おー!「3へぇ」も、もらえるんですか!?
    長々と読ませといて「そんな事はどうでもいい」なんて、無責任この上ない自論に大賛成して下さる方がいらっしゃるなんて事自体に、
    「へぇ」「へぇ」「へぇ」「へぇ」「へぇ」「へぇ」「へぇ」の「3へぇ」で!

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